エルゴチオネインとは?他の抗酸化物質と比較して分かる実力
エルゴチオネインとは、キノコ類に代表される、ごく一部の菌類に含まれる抗酸化物質です。この物質が持つ特殊な作用により、老化防止や生活習慣病の予防、美肌効果などをもたらす可能性が指摘されており、近年は国内外で多くの機関が研究材料として取り扱っています。この記事では、その他の抗酸化物質とも比較しながら、その実力について解説します。
エルゴチオネインとは?その基本概念
エルゴチオネインとは、キノコ類などの細菌が合成する天然のアミノ酸誘導体です。これは強力な抗酸化作用を備える特殊な物質であり、1900年代初頭から研究が進められてきました。まずはエルゴチオネインとはどのような物質なのか、由来や歴史も含めた基本概念をご紹介します。
エルゴチオネインの由来と歴史
歴史をひもとくと、この成分の発見は1909年にさかのぼります。フランスの科学者であるM.C.Tanret氏がライ麦角菌から単離し、1911年にG.Barger氏とA.J.Ewrns氏が化学構造を解明しました。エルゴチオネインという名称はエルゴ(麦角)に由来しており、チオ(硫黄原子)と掛け合わせて命名されています。
日本国内でエルゴチオネインが注目を浴びるきっかけとなったのは、老化防止や美肌といった効果があると指摘されたためです。2018年には、北海道大学と筑波大学がタッグを組み、大量生産に向けた取り組みをスタートさせました。この取り組みでは、大腸菌を活用して発酵させることにより、大量生産を成功させています。
エルゴチオネインの生産に導いた立役者と言えるのが「たもぎ茸」です。たもぎ茸とは、北海道や東北地方などに自生するキノコであり、その他のキノコと比べて圧倒的と言えるほど多くのエルゴチオネインを含有しています。たもぎ茸は人工栽培が難しい希少な食材とされてきましたが、1985年ごろから人工栽培の研究が進み、現在は人工栽培技術が確立されました。これにより、天然物からエルゴチオネインを抽出しやすくなり、その生産能力はかつての千倍以上に向上しています。
エルゴチオネインの化学構造と役割
科学的でやや難解なまとめ方になってしまいますが、これはヒスチジンのチオ尿素誘導体です。水溶性の含硫アミノ酸であり、120℃で2時間加熱しても成分が損なわれず、調理や加工に適していることが特徴と言えます。エルゴチオネインを体内に取り込むと、専用のトランスポーターである「OCTN1」を介して脳や肝臓、腎臓、赤血球、皮膚などに蓄積されます。
主な役割として期待できるのは、私たちの体内で健康に活動し、増殖を続けている細胞の保護です。細胞は、人間が直面するストレスや紫外線、喫煙、排気ガスなどの影響を受け、過剰に生成された活性酸素からダメージを与えられます。これが、肌の老化や生活習慣病、心身の疲労といったトラブルを招く要因の一つです。このような連鎖を防ぐと考えられるのが「抗酸化」です。
詳細は後述しますが、シワやたるみといった老化に対抗するアンチエイジング効果、糖尿病や心筋梗塞といった生活習慣病予防、認知症予防などに有効であることが示唆されています。私たちの健康寿命を引き伸ばし、健やかな生活を送る上で、大きく貢献するでしょう。
エルゴチオネインが注目される理由
結論から申し上げますと、注目度を高めている理由の筆頭として挙げられるのは、日本の高齢化です。日本は超高齢化社会を迎え、日本の人口が減少局面にあることも起因となり、高齢化率は39%になると推計されています。そこで問題になるのは、平均寿命と健康寿命の間に生じるギャップです。
健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間を指します。しかし、加齢とともに身体機能が低下し、認知症や心臓病、生活習慣病を引き起こすリスクが高まります。これらの持病を抱えると、健康寿命を延ばすのは難しいと言わざるを得ません。
エルゴチオネインは、これらの加齢が原因で引き起こすトラブルを予防・改善する可能性を秘めた物質として注目されています。サプリメントなどを活用しながら継続的に摂取することにより、全身の老化を予防し、健やかで明るい生活を続けられる可能性があるのです。
エルゴチオネインの効能と効果
最大の特徴とも言えるポイントは、その他の抗酸化物質と比較して強力な抗酸化作用を持つことです。抗酸化作用は、私たちの健康と美容に大きなメリットをもたらす可能性があります。サプリメントなどを活用しながら日常生活に取り入れることにより、期待できる効能と効果について、さらに深く見てみましょう。
抗酸化作用と健康への影響
エルゴチオネインが持つ抗酸化作用が健康に与える影響として、以下の点が指摘されています。
【健康に影響すると考えられていること】
期待される効果 健康への影響
生活習慣病の予防 抗酸化作用により動脈硬化、糖尿病、高血圧のリスクを抑える
脳機能の保護 脳内の神経ストレスを軽減し、記憶力や集中力、認知機能を維持する
免疫力の向上 免疫細胞の機能低下を抑え、感染症などへの対抗力が向上する
抗炎症作用 酸化ストレスが引き起こす炎症を予防し、改善する
疲労回復 細胞のミトコンドリアを保護し、疲労を軽減する
エルゴチオネインが持つ抗酸化作用は、活性酸素が原因で発生するDNA損傷や脂質過酸化を抑制する可能性があります。その結果として、生活習慣病の予防や脳機能の保護、免疫力の向上といった、さまざまな効果が期待できるのです。
スウェーデンで高齢者を対象に21年間にわたって行われた研究結果を見ると、エルゴチオネインの血中濃度が高いほど、心血管疾患リスクと死亡リスクが低かったとまとめられています。これは、私たちの健康を維持する上で密接な関係性があることを裏付ける根拠のひとつと言えるでしょう。
肌への効果と美肌成分としての役割
エルゴチオネインが注目される理由のひとつに、美肌成分としても大きな役割を果たす可能性が指摘されている点を挙げられます。シミやシワといった肌トラブルが発生する原因のひとつが、紫外線の影響で発生した活性酸素の存在です。これに対抗する効能を備えるのが抗酸化物質であり、この働きは紫外線から肌を守る上で大いに役立つでしょう。
昭和39年に長野県で創業した「ホクト株式会社」は、おいしくて健康な「きのこ食文化」を提案する企業として知られていますが、この会社は後述するランキングにも登場する「ヒラタケ」を使ったヒト臨床試験を実施しています。この結果、エルゴチオネイン25mgを配合するヒラタケを12週間摂取し続けた女性は肌水分量を維持でき、紫外線ダメージを軽減できたことがわかりました。美肌への作用は、臨床試験においても実証されているのです。
その他にも、抗炎症作用による肌荒れや赤みの軽減、メラニン生成抑制効果によるシミやそばかすの予防、エラスチンを保護することによる肌のハリと弾力の維持など、期待される美肌効果は多岐にわたります。近年では、エルゴチオネインを用いた化粧品も開発されており、エルゴチオネインの魅力は広く知られるようになりました。
エルゴチオネインを含む食べ物
エルゴチオネインは人間が自然に生成できないため、食べ物やサプリメントから意識的に摂取する必要があります。どのような食べ物を多く摂取すると、1日に必要な量を効率良く摂取できるのか、大学による研究結果をまとめたランキングも交えながらご紹介します。
おすすめのキノコ類(まいたけ・タモギタケ)
この後のランキングでもご紹介するとおり、キノコ類にたっぷりと含まれています。お近くのスーパーマーケットや八百屋でも、気軽に入手できるでしょう。しかし、含有量はキノコの種類によって大きく異なるため、効率的に取り入れるためには、食材として選ぶキノコの種類を慎重に選ばなければなりません。
・まいたけの特徴
まいたけ(マイタケ、舞茸)は、サルノコシカケ科マイタケ属に属するキノコです。主な産地は新潟県で、約65%のシェア率を誇ります。まいたけは、香りとうまみの深さが特徴のキノコで、さまざまな調理法との相性が良いキノコです。1年を通じて気軽に入手できることもあり、私たちにとって身近な存在と言えるでしょう。
・たもぎ茸
たもぎ茸(タモギダケ)は、ヒラタケ科ヒラタケ属に属するキノコです。国内では北海道や東北地方といった寒冷地に自生しており、鮮やかな黄色の外観が特徴です。たもぎ茸の特徴は、エルゴチオネインの含有量が非常に多いことです。熱に強いため、加熱しても栄養が失われにくく、スープや炒め物に適しています。
エルゴチオネイン含有量ランキング
先述したとおり、ひとことでキノコと言っても、エルゴチオネイン含有量は千差万別です。ここでは、後述する学術的な研究結果をひもとき、エルゴチオネインを含むキノコの種類と、100gあたりの含有量をランキング形式でご紹介します。
【含有量の比較表】
キノコの種類 エルゴチオネイン含有量
たもぎ茸 125.6mg
ヒラタケ 27.4mg
エリンギ 12.7mg
ハナビラタケ 11.2mg
エノキタケ 9.8mg
シイタケ 9.6mg
ヤマブシタケ 9.1mg
ヤマエノキタケ 6.8mg
マッシュルーム 3.8mg
白マイタケ 2.9mg
※100gあたり
上記のランキングは、山形大学農学部が『今月の農業 2009年1月号』に寄稿した調査結果をもとにしたランキングです。出典によってばらつきがあるため、あくまでも参考値ではありますが、たもぎ茸のエルゴチオネイン含有量は桁違いであることがわかります。
先ほどご紹介したまいたけとたもぎ茸を比較すると、その含有量には約100倍もの開きがあります。先述した研究で用いられたヒラタケも、ランキングでは第2位に食い込んでいますが、たもぎ茸と比較すると、約5分の1程度の含有量に限られています。より効率的に成分を取り入れられる食材がどちらかは、ランキングをひと目見ただけで明らかです。
健康維持とエルゴチオネインの関係性
ここまでにお伝えしてきたように、エルゴチオネインは人間の健康維持に深く関与する物質です。ここでは、老化防止と長寿の関連や、生活習慣病予防に役立つとされる根拠は何か、学術的な観点からお伝えしましょう。
老化防止と長寿との関連
医学の進歩や栄養状態の向上により、人間の平均寿命は大きく延びました。しかし、これは感染症や栄養失調といった早期死亡の原因を減らすことにより達成したものであり、長寿イコール健康とは断言できません。そこで注目されているのが、老化防止による健康寿命の延伸です。
健康寿命を延伸するために重要と考えられているのが、老化の根本的なメカニズムを解明し、老化の原因を制御することです。特に、分裂を停止した細胞である「老化細胞(ゾンビ細胞)」は老化の原因として大きな存在と考えられています。蓄積した老化細胞は、動脈硬化や生活習慣病の原因となる慢性炎症を引き起こすためです。
老化細胞が発生する原因と考えられるのは、体内で発生する活性酸素がもたらす酸化ストレスです。活性酸素に対抗する物質こそが、エルゴチオネインが持つ抗酸化物質であり、抗酸化物質を日常的に摂取することが、老化防止と健康寿命の延伸につながると考えられています。
生活習慣病予防への期待
先ほども触れたとおり、以下のような生活習慣病予防に役立つと考えられています。
【もたらすと考えられる生活習慣病予防】
動脈硬化 過酸化脂質の生成を抑え、心血管リスクを低減する可能性がある
糖尿病 インスリン抵抗性を改善し、血糖値を安定させられる場合がある
がん DNA欠損を防ぐことにより、がん細胞の増殖を抑えやすくなる
神経偏執性疾患 アルツハイマー病などの原因となるアミロイドβを抑制しやすくなる
いずれも健康寿命を脅かすトラブルであり、これらに対抗できる可能性を秘めたエルゴチオネインは、すべての人類にとって魅力的な物質と言えるでしょう。
まとめ
エルゴチオネインとは、たもぎ茸に代表されるキノコ類に含まれる抗酸化物質です。1909年に発見されて以来、さまざまな研究が重ねられており、ヒト臨床試験においても、その効果が裏付けられています。現時点での研究は途上段階ではあるものの、心血管疾患予防、老化防止などに寄与すると考えられており、健康寿命の延伸を願うすべての人にとって魅力的な物質です。

